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1.日本語の文字表記  2.古文は漢文より難しい  3.姉が妹を通訳


3.姉が妹を通訳 2001年5月12日  TOP   

 

 かれこれ10年ぐらい前のことだが、私の知り合いに当時、5歳と3歳の娘がいた。ある日、知り合いは二人の娘を連れて出かけたのだが、何か妹の方がむずがっているのだが、彼には3歳の娘が一体何を言っているのか、全然分からない。しかるに、5歳の姉の方は、なんと妹が何を言っているのか分かるのであり、それを父親に向かって説明する、いわば通訳するのである。

 私はこの話を聞いて考えたのだが、古文の難しさというのは、いわば子供の言葉の難しさである。父親にも当然、子供の時があったのだが、そんな時代の言葉は、大人になった今ではすっかり忘れている。古文にも同じようなことが言えないだろうか。

 我々は平安時代の人間の言葉は分からない。しかし、5歳の姉に3歳の妹の言葉が分かるように、鎌倉時代とか室町時代ぐらいなら、まだ平安時代の言葉は分かったのではなかろうか。そして、室町時代ぐらいの言葉なら、これも分かりにくいとは言え、平安時代の言葉よりは、まだ大分分かりやすそうである。人間の成長段階に見られるような言語差は、時代時代にも当てはまるのではないだろうか。

 古今東西と言うが、この場合、東西とはすなわち異なった国家・民族間の言語の差異であり、古今とは同じ国家・民族の現在過去の言語差である。古今の差というものは、案外、東西の差よりも難しいものがあるかもしれない。大昔の近代以前の人間の発想より、たとえ外国でも、同じ近現代的発想で生活している人間の言っていることの方がまだ分かりやすいと言うこともあるかもしれない。

 

2.古文は漢文より難しい 2001年5月5日  TOP   

 

 難しい漢字ばかり並んでいる漢文よりも、平仮名の多い古文の方が分かりやすいと思っている人はたくさんいるかもしれないが、実際、聞いてみると、理系出身の人を中心に、「漢文の方が分かりやすかった」という反応が返ってくる。つまり、古文はなかなか法則通りに行かないが、漢文には法則があって、それで分かりやすいのだという。

 実際、前回述べたように、古文は(今は文語とされていても、もともとは)当時の話し言葉である。それゆえ、理屈で割り切れない法則外れの表現が続出するのであり、それを文法として整理すれば、非常に難解なものとなる。それに対し、漢文は一定整理された文章語として一定の法則を意識して書かれていたので、少なくとも、文法は古文より簡単であるといえるのである。

(話し合っている当事者同士でないと分からないような)主語の省略、一文の長たらしさ。今挙げただけを見ても、古文の特徴は確かに話し言葉のものであるが、前に古文を取り上げて、今の「女子高生の作文」のようと評したが、(自由に書かせた場合)、確かに彼女らの作文は非常に「難しい」。まず、彼女らの生活習慣が分からないと理解できないし、話し言葉で書くから、身内のものにしか分からないような省略が多く、それこそ平安女流作家の文章と似た面は多々ある。

 いわば、古文の難しさというのは、まだ「日本語に熟達していない」人間の作文を理解しようとする難しさであるとも言えるのである。実際、小さい子供の話していることを理解するのは案外、難しいものである。

 

日本語の文字表記 2001年4月10日 同4月28日改訂 TOP   

 

 確かに、日本語という言語は、文字表記という点では、初学者には便利な言語かもしれない。

 前にも述べたように、中国語や欧米語などの言語圏では、子供が作文を書くためには、一定数以上の漢字もしくは単語のスペリングを覚えなければならない。これらの言語では、その語を話せるからと言って、それを書けるとは限らないのである。

 それに対し、日本語では、最初に仮名を学習したら、基本的に自分の考えたことは文章に出来る。後は、発展段階に応じて漢字を覚えていき、分からない漢字があれば、とりあえずその部分だけ仮名で書いておけばよい。また、難しい漢字にはルビ(読み仮名)を付けることも出来る。実際、初学の児童の作文能力は、日本の場合、格段に高いという。それこそ思った通りに書けばよい。

江戸時代の日本が、世界でも文盲率の低い国だったということは、案外、この漢字と仮名をいう表意文字と表音文字とを組み合わせた、おそらく世界でも例をみない文字体系のおかげかもしれない。

 更に、今から千年も前に、『源氏物語』のような長編物語を書けたのは、案外、仮名の功績であると言っても過言ではなかろう。それこそ、紫式部や清少納言のような当時の宮廷才女たちは、仮名によって、思ったまま、話したままを書くことが出来たのである。

 もっとも、当時の話し言葉である、それらの文章は現在の女子高生の作文のような分かりにくい文章であるが、それはそれで面白い面もある。